不妊治療を受けている人や人生においていつか妊娠したいと思っている人のなかにはAMH検査をすすめられたことがある人もいるのではないでしょうか?しかし、あまり聞き慣れないAMH検査に「どんな検査なの?」「それって本当に私に必要?」と疑問を感じている人もいます。
この記事では、AMH検査について徹底解説。どのような検査なのか、何がわかるのか、やり方、平均値、保険適用の有無などを分かりやすく紹介します。AMH検査について知りたい人はぜひ参考にしてみてください。
知ってる?卵子ができる仕組み
AMH検査は卵子の発育に関わる値を調べるための検査です。妊娠をするために卵子が必要なことは、もちろん多くの人がご存知でしょう。しかし、卵子がどのように作り出されていくのかを知っていますか?
まず最初に、卵子ができる仕組みについてみていきましょう。
卵子は原始卵胞を元に作られるもの
卵子は、卵巣の中にずっと存在している訳ではありません。卵巣内にある原始卵胞が発育した結果、卵子となります。
原始卵胞はいくつもの卵胞が発育を開始し、より質の良いものやしっかり成長した1つの卵子だけが排卵されます。(稀に複数の卵子が排卵されることがあり、複数が受精・着床した場合、多胎児妊娠となることもあります。)
1度排卵するごとに、原始卵胞は1,000個減少するとも言われており、原始卵胞が極めて少なくなると卵巣は排卵機能の役割を終え、閉経する準備を始めます。
原始卵胞の数は生まれた時から決まっている
卵子を作るために欠かせない原始卵胞ですが、実は胎児の頃に一番多く持っているといわれています。その細胞数はそれぞれに決まっており、誕生後は減少し続け途中で増えることはありません。
一般的に、女性はおよそ200万個の原始卵胞を持って生まれます。排卵が始まる前から原始卵胞は徐々に減少していき、初潮を迎える頃にはすでに約20~30万個まで減少すると考えられています。
つまり、わたし達の体は生まれた時から、一生の内に排出できる卵子の総数がある程度決められているということです。
AMH検査とは
AMHとはAnti-Müllerian Hormone(抗ミュラー管ホルモン)の略称です。AMHは、原始卵胞が卵子に育つ際の初期段階に分泌されます。
AMH検査を用いてAMH量を測定することで、卵巣がどの程度卵子を作り出す力を備えているのかを調べることができます。
AMH検査で分かる4つのこと
AMH検査の結果から、主に以下の4つを知ることができます。
1.原始卵胞が多いか少ないかわかる
AMH検査を行いAMH量を測定することで、おおよその原始卵胞の量を推測することができます。もちろん厳密にいくつの原始卵胞があるのか分かる訳ではありませんが、卵子に成長しようとしている原始卵胞が多いのか少ないのかを調べることができます。
多くの原始卵胞が卵子に成長しようとしているのであれば、卵子を作り出すことに関しては機能的に問題がないとわかるでしょう。
一方で、卵子に成長しようとしている原始卵胞が少なければ、それだけ健康な卵子として排卵される卵子が生まれる確率も下がってしまいます。
原始卵胞の量からは、卵巣の持つ卵子を育成する力を推測することができるのです。
2.不妊治療のステップアップが必要か検討できる
妊娠を希望している場合、卵子が排卵されている必要があります。しかし、AMHの値が低いと正常に卵子の育成が行われていない可能性も考えられるでしょう。
母数が少なければそれだけ、適切に排卵できる確率も低くなってしまいますし、AMH値が著しく低い場合、閉経が近い可能性も示唆されます。
万が一閉経してしまえば、理論的に妊娠は不可能です。
AMH検査を受けて卵巣の予備機能を調べた結果が分かれば、不妊治療を行う、もしくはステップアップさせるタイミングを検討する判断材料にもなるでしょう。
3.多嚢胞性卵巣症候群リスクの有無がわかる
多嚢胞性卵巣症候群とは、定期的な排卵が起こらず不正出血、無月経、月経不順などの症状がみられる排卵障害の一種です。妊娠可能な女性における全体の約5~8%に発症すると言われており、重症化すると子宮内膜増殖症や高分化型の子宮体癌リスクも上昇すると言われています。もちろん、排卵障害なので自然妊娠しにくくなるリスクもあるでしょう。
多嚢胞性卵巣症候群になるとAMH値が平均値の2~4倍高くなることが分かっています。そのため多嚢胞性卵巣症候群の診断は、月経異常の有無と超音波検査、AMH検査で行われるのが一般的です。
4.早期卵巣不全のリスクの有無がわかる
早期卵巣不全とは、40歳未満で正常に排卵がされておらず無月経になっている状態を指します。早期卵巣不全は、永久に排卵が止まる早期閉経タイプと、頻度は少ないながらも稀に排卵が起こるタイプに分かれますが、どちらも自然妊娠は大変難しい状態であると言えるでしょう。
妊娠できる年齢以上かつ40歳未満の女性の100人に1人が発症すると言われており、そう珍しい病気でもありません。
AMH検査によってAMH値が極端に少ないことが分かった場合、卵巣の予備機能が低下していると判断でき早期卵巣不全が疑われることがあります。
意味ない?AMHの数値と妊娠のしやすさは違うって本当?
AMH検査から測定できる数値は卵巣の機能を測るため、AMH値が高い=妊娠しやすいと勘違いされることがありますが、大きな誤解です。
妊娠に必要なのは、卵子の数よりも質と言えます。受精し着床できる健康な卵子が排卵されていることが、妊娠に欠かせない第一歩と言えるでしょう。
一方、AMH検査で分かるのは、原始卵胞が卵子に成長していっているおおよその量だけです。これは卵子の質とは無関係であるため、原始卵胞が少ないからといって一概に質の悪い卵子しかできないとは言えませんし、全く排卵しないという訳でもありません。
反対に、AMH値が高く多くの原始卵胞が卵子へと育成されていても、適切に排卵されなかったり質の悪い卵子では妊娠しにくくなってしまうのです。
AMH検査でわかるのはあくまで「今の卵巣に、卵子を育成する力はあるのか」ということだけです。妊娠するために卵子は必要不可欠な存在ですが、AMH値だけでは妊娠のしやすさを判断することはできないでしょう。
しかし、妊娠するために原始卵胞が必要であることに変わりはないため、「妊娠できる可能性があるのか、もしくは低いのか」に関してはAMH検査の結果を判断材料にすることができます。
いくら卵子の質がよくても、卵子として成長する原始卵胞の母数が少なければ無事排卵に辿り着けないかもしれませんし、それこそ閉経してしまっては妊娠はできません。
妊娠を望んでいる人にとってAMH検査は重要な指標となります。
AMHの検査方法
AMH検査は、血液を採取し血中のAMH濃度を測定します。卵子の成育は月経周期に関係なく行われるものであるため、タイミングを問わずいつでも検査可能です。
ただし、ピルなどのホルモン剤を服用していると正しい数値が計測できないことがあるため、低用量ピルや超低用量ピルなどを服用している人は、1ヶ月以上ピルを休薬してから検査を受けるのがおすすめです。服薬中に検査を受けると、実際よりも低い数値が測定されることがあります。
AMH値の平均値とは
生まれた時に約200万個あると言われている原始卵胞は、思春期には20~30万個、30代後半では約2万個まで減少すると言われています。閉経を迎える頃には1,000個前後になり、やがて卵子を作りだす機能を失います。
AMH値は血中に含まれるAMH量を測定したもので、2019年に発表された論文では平均値および中央値を以下のように紹介しています。
年齢 | 平均値 | 中央値 |
---|---|---|
28歳 | 5.4ng/ml | 4.5ng/ml |
29歳 | 4.6ng/ml | 4.4ng/ml |
30歳 | 5.3ng/ml | 3.9ng/ml |
31歳 | 4.5ng/ml | 3.7ng/ml |
32歳 | 4.7ng/ml | 3.8ng/ml |
33歳 | 4.3ng/ml | 3.5ng/ml |
34歳 | 3.7ng/ml | 3.0ng/ml |
35歳 | 3.4ng/ml | 2.8ng/ml |
36歳 | 3.4ng/ml | 2.8ng/ml |
37歳 | 3.0ng/ml | 2.4ng/ml |
38歳 | 2.7ng/ml | 1.9ng/ml |
39歳 | 2.4ng/ml | 1.8ng/ml |
40歳 | 1.9ng/ml | 1.4ng/ml |
41歳 | 1.6ng/ml | 1.2ng/ml |
42歳 | 1.5ng/ml | 1.0ng/ml |
43歳 | 1.3ng/ml | 0.9ng/ml |
44歳 | 1.1ng/ml | 0.8ng/ml |
45歳 | 0.8ng/ml | 0.4ng/ml |
46歳 | 0.6ng/ml | 0.5ng/ml |
47歳 | 0.6ng/ml | 0.5ng/ml |
48歳 | 0.6ng/ml | 0.2ng/ml |
ここで紹介された平均値と比較し、原始卵胞の多さや少なさを判断します。
また、6以上の数値の場合は多嚢胞性卵巣症候群のリスクがあると考えられ、0.5未満の場合は早発性卵巣不全が疑われます。
AMH検査は保険適用される
これまで保険適用外であり原則、自由診療として行われてきたAMH検査ですが、2022年4月から診療報酬改定によって保険適用診療の対象となりました。
しかし、どんな場合でも保険適用になる訳ではないので注意が必要です。
AMH検査を保険適用とする場合、以下の条件があります。
- 体外受精を行う場合の卵巣刺激法の薬剤投与量を決定することを目的としたAMH検査
- 保健算定されるのは6ヶ月間の間に1回
タイミング法や人工授精などの不妊治療を行う場合や、将来的な卵巣予備機能の測定を目的としたAMH検査は保険適用外です。
AMH検査で卵巣の予備機能を調べよう
AMH検査によって分かる数値からは、卵子や卵巣にまつわるさまざまな状態を知ることができます。今後、出産をしたいと思っている人や不妊治療をしていてステップアップするべきか迷っている人など、卵巣がどれ位卵子を生み出す力を持っているのかAMH検査で調べてみてはいかがでしょうか。
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