ここ数年、梅毒患者数が増えていると話題になっています。梅毒は、他の性感染症と違い経過が長く、症状も特徴的で気がつきにくく、無治療のまま進行してしまうことがあります。しかし、治療をおこなえば、治すことができる感染症です。
梅毒とは
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌による感染症です。多くの性感染症は、性器周囲に症状が出ますが、梅毒は全身に多彩な症状が出るという特徴があります。
梅毒は「五類感染症」に定められており、国が感染者数を把握しています。感染者数は、ここ10年ほどで急激に増加傾向です。初期症状がわかりにくいため、気がつかないうちに他者にうつしてしまうことが少なくありません。
2012年には875件だった報告件数が、10年後の2022年には10,141件にものぼっています。男性は20〜50代の幅広い年代、女性は20〜30代での感染が多いです。
梅毒の感染経路
梅毒は、主に性的な接触で感染します。日常生活で感染することはほとんどありません。
男女の性交渉のほか、オーラルセックス、アナルセックスなどあらゆる性的接触が感染経路として知られています。
唇や口内に症状が出ることもあるため、キスで感染する可能性も否定できません。
性風俗に従事している方や、複数のセックスパートナーがいる方は感染のリスクが高いです。SNSやマッチングアプリ等によって、個人同士での出会いの機会が増えていることも、梅毒増加の原因として考えられています。
梅毒の症状
梅毒は、感染からの経過時間と症状の違いによって、4つの時期に分けられます。思いあたる症状があった場合には、すぐに検査を受けましょう。
第1期梅毒
感染から3週間ほどが経過すると、感染の入り口となった部位に少し硬い「しこり」のようなものができます。はじめは小豆ほどの大きさの「初期硬結」ですが、だんだんと周囲に広がって硬く盛り上がるようになり、中心部が崩れた「硬性下疳(こうせいげかん)」と呼ばれる潰瘍になります。
- 男性:亀頭、陰茎、性器周辺の皮膚
- 女性:大陰唇や小陰唇周辺の皮膚、膣内
- 男女共通:口唇、口内
少しリンパ節が腫れることもありますが、第1期では初期硬結や硬性下疳が生じる以外にはほとんど自覚症状がありません。痛みもかゆみもなく、ただしこりがあるだけです。
初期硬結や硬性下疳は、時間の経過とともに2〜3週間で自然と消滅します。しかし、治ったわけではありません。感染力もあるため、注意が必要です。
第2期梅毒
感染から3か月〜3年ほどの時期が第2期です。第2期は、全身の皮膚・粘膜にさまざまな症状が出ます。
丘疹性梅毒疹 | 感染から12週間ごろに生じやすい。小豆〜えんどう豆程度の大きさで、赤黒く、少し盛り上がったしこりが複数できる。 背中、胸、手のひら、足の裏など。 |
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梅毒性乾癬 | 少し湿ったような赤茶色の発疹がいくつもできる。痛みやかゆみはないが、乾燥するとフケのようになる。 手のひら、足の裏に多い。 |
梅毒性バラ疹 | 淡い赤色の発疹がいくつもできる。数週間で消えるため、見過ごされることも多い。 背中や胸など体幹を中心に、顔、手のひら、足の裏など。 |
梅毒性アンギーナ | 喉や軟口蓋(口内の上の部分)が赤く腫れる。 |
梅毒性脱毛 | 髪の毛やまつ毛などが抜ける。全体的に抜けることもあれば、部分的に抜けることもある。 |
扁平コンジローマ | デリケートゾーンや肛門の周辺に生じる。平べったくでこぼこしており、ジクジクしていることもある。中に梅毒トレポネーマが多数含まれていて、感染源になりやすい。 |
膿疱性梅毒疹 | 膿のたまったイボがいくつもできる。 |
こうした症状は自然に消退し、無症候性梅毒という状態になります。症状はなくとも、感染が持続している(検査をすると陽性になる)状態です。症状が出たりおさまったりを繰り返しながら、第3期・第4期へ進んでいくこともありますが、日本ではほとんどの方が第2期までに診断がついて治療をおこなうことができ、治癒しています。
第3期梅毒
感染して3年以上経過すると、第3期です。感染から1年以上経過すると後期梅毒と呼ばれ、性交渉での感染力はなくなります。現在の日本では、第3期まで進行した梅毒はほとんど見られません。
結節性梅毒疹 | 数cm程度の大きさで、赤銅色のしこりが顔などに多発する。あとは残るが、数ヶ月で治癒する。 |
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ゴム腫 | 皮膚の下にできたしこり。ゴムのように柔らかいのでゴム腫と呼ばれる。 |
第4期梅毒
第4期梅毒も、日本ではほとんど見られません。第4期まで進行すると、大動脈瘤や進行麻痺などが生じます。
梅毒トレポネーマは、感染後数時間で髄液に運ばれ、脳や脊髄など、神経系に侵入することがわかっています。感染1年以内に神経症状を起こすこともありますが、頻度は高くありません。無治療のまま10年以上が経過すると神経症状は必発といえます。
先天梅毒
妊娠中に梅毒に感染した場合に、胎盤を通して胎児にも梅毒が感染してしまうことを先天梅毒と呼びます。
妊娠12週の段階で、すべての妊婦さんは梅毒の検査をおこないます。梅毒に感染しているとわかり、治療をおこなったとしても、胎児への感染確率をゼロにすることはできません。未治療だと約40%、治療をしても約14%は先天梅毒に至ります。
産まれた時点で紫斑、黄疸、肝脾腫、脈絡網膜炎などの症状が出ている場合もあれば、しばらくして難聴や視覚障害、知的障害などがわかる場合もあります。残念ながら流産・死産になってしまう可能性もあり、妊娠前・妊娠中に梅毒の検査をすることがとても大切です。
梅毒の検査・治療
梅毒かもしれないと思ったときには、まず検査をおこないましょう。血液検査で、簡単に調べることができます。
ただし、感染のきっかけから最低でも4週間以上たっていなければ、感染しても陽性になりません。複数のセックスパートナーがいる方は、定期的に性感染症の検査をされるとよいでしょう。
代表的な検査方法は2種類あります。一般的には、この2種類の検査法を組み合わせて診断をすることが多いです。どちらも、血液中の抗体(病原体を排除するための物質)の有無を調べる方法です。
RPR法
梅毒トレポネーマが細胞を壊すとでてくる「カルジオピリン」に対する抗体を調べる検査法です。感染から4週間以上経過していれば、陽性になります。結果が出るまで数日かかります。治療によって治癒したかどうかの判断にも使われる検査法です。
TP抗原法
梅毒トレポネーマそのものに対する抗体を調べる検査法です。感染から6週間以上経過していれば、陽性になります。その日のうちに結果がわかります。
横浜市では、各区福祉保健センター等で無料の検査日を設けています。匿名で検査が受けられますので、不安のある方は予約して検査を受けてください。
無料ではありませんが、婦人科や泌尿器科、皮膚科などでも検査をおこなえます。
梅毒の治療
梅毒の治療は、早期であればあるほどすぐに終了できます。
ペニシリン系抗菌薬の飲み薬を1日3回服用するのが基本です。第1期は2〜4週間、第2期では4〜8週間、第3期は12週間程度続けます。梅毒は自然に症状が消えるとお伝えしてきましたが、抗菌薬を途中でやめてしまえば治癒しませんので、指示された通りの期間しっかりと抗菌薬を飲むようにしましょう。ペニシリン系のアレルギーがある方は、別の治療薬で同じ期間の治療をします。
2021年からは、新しく発売された注射薬「ステルイズ」も使用できるようになりました。感染から1年以内の早期梅毒であれば1回のみ、1年以上経過した後期梅毒でも、週に1回の注射を3回で治療終了です。
治療中は、性交渉を控えてください。コンドームをつけていても、感染を完全に防ぐことはできないためです。皮膚や口内など、症状のある部位が接触することで感染する可能性があります。
また、感染がわかったときは、性交渉をしたパートナーも一緒に治療することが大切です。知らず知らずのうちに感染を広めてしまわないよう、パートナーにも知らせてください。
早めにご相談を
梅毒は、症状が出たり消えたりを繰り返すというのが特徴的です。症状が消えたからといって、梅毒が治ったわけではありません。早く治療を開始する方が、早く治療を終えられます。思い当たる症状やきっかけのある方は、早めに検査を受けましょう。
当院でも検査を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。