月経前症候群(PMS)とは、生理前に起こる身体的・精神的なトラブルのことです。「生理の前はいつも調子が悪いけど、生理だから仕方ない」「なんだかイライラすると思ったら生理の前だった」などと諦めて毎日を暮らしている方も多いですが、実はきちんと治療をすると今よりもずっと快適に生理前を暮らすことができるようになるのです。
PMS(月経前症候群)とは
多くの女性が「生理前だから仕方ない」と諦めているこれらの症状に、PMSという症状名がついていて、かつ改善方法があることをご存知でしょうか。
PMSとは「Premenstrual Syndrome」の略で、日本語では「月経前症候群」や「月経前緊張症」と呼ばれています。月経開始2~10日前に見られる心身の症状を指します。月経が始まると症状が治まるのが特徴です。
月経の前に無性にイライラしたり体の不調を感じたりと女性の70%程の人が何らかの症状を感じ、6.5%の日本女性が社会生活に支障が出る症状を感じているとの報告があります。
西洋医学・東洋医学からみるPMSの原因
PMSは比較的最近、月経にまつわる症状の一種として判明してきたため、未だ明確な原因は解明されていません。しかし、西洋医学、東洋医学それぞれにPMSの原因と考えられるものがあります。
西洋医学からみるPMSの原因
西洋医学では、PMSの原因のひとつとしてプロゲステロンとエストロゲンによる作用が挙げられています。
プロゲステロンは女性ホルモンの一種で、排卵後に分泌量が増え月経が始まる数日前に減少していきます。プロゲステロンの分泌量が増える時期は黄体期、または高温期とも呼ばれ、PMSが起こるタイミングでもあります。
プロゲステロンは、妊娠に向けて体温を上昇させ子宮内膜を厚くする働きを持つホルモンです。PMSによる体のだるさや腰痛などは、プロゲステロンによる体温の上昇や子宮内膜の増加が関係しているのではないかと考えられています。
また、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが排卵期から黄体期(高温期)にかけて急激に減少することもPMSの原因の一つと考えられています。
エストロゲンは精神を安定させる物質であるセロトニンの分泌を促すホルモンです。排卵期に最高潮に達したエストロゲンの分泌が、黄体期になると急激に減少することでセロトニンの分泌量も激減し、不安感やイライラなどの精神症状が現れると考えられています。
東洋医学(漢方)からみるPMSの原因
漢方を始めとする東洋医学では、人の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスが保たれることでけんこうな状態を維持し、PMSはこれらの乱れによって引き起こされていると考えられています。
「気(き)」に乱れがある場合は自律神経や精神が安定せず、「血(けつ)」に乱れがある場合は血流が滞っており頭痛や腹痛、腰痛、肩こり、冷えなどの身体的症状が強くみられます。また、「水(すい)」に乱れがある場合は、腎臓や肝臓、胃、腸などの臓器の機能が低下して、便秘、下痢、過食、むくみなどの症状が強く見られると考えられているのです。
PMSの症状
PMSの症状には身体、自律神経、精神の3つの傾向があります。
1.身体に見られる症状
PMSで見られる身体の症状には以下のものがあります。
- 頭痛
- 腹痛
- 肩こり
- 腰痛
- むくみ
- 腹部の膨張感
- 胸の張り
- 便秘
- ニキビ
- 関節痛
- 体重の増加
特に、ニキビなどの肌荒れや腹部の膨張感、腰痛などはPMSの身体的症状として多く聞かれます。
2.自律神経に見られる症状
PMSで見られる自律神経系の症状には以下のものがあります。
- ほてり
- めまい
- 動悸
- 倦怠感
- 不眠
- 過眠
これらの症状のほか、お腹が空いていないのに何かを食べたくなったり、お腹が空いているのに食欲が湧かないなどの症状を訴える人もいます。
3.精神面に見られる症状
PMSで見られる精神面の症状には以下のものがあります。
- 理由もなくイライラする
- 些細なことで激昂する
- 不安を感じる
- 涙もろくなる
- ネガティブなことばかり考えてしまう
- 自己否定をしてしまう
- 集中できない
- 他人との関わりを億劫に感じる
- 無気力になる
精神面の症状が強い場合はPMDDの可能性も
- 怒りっぽい
- 暴力的
- 抑うつ
- 緊張
- 無気力
- 不安
- 情緒不安定
- 涙もろい
- 集中力低下
- 疲労感
- 眠気
- 不眠
- 悪夢
- パニック
- 妄想
上記のような精神面の症状が強くみられる場合はPMDDの可能性があります。PMDDとは、「月経前不快気分障害」の英名「premenstrual dysphoric disorder」を略した呼び方です。PMSと同じく生理前2~10日に症状が現れ、生理の開始と同時に症状が治まります。
生理前になると友人や恋人と喧嘩をしてしまう人や、職場でも自分自身の感情がコントロールできずトラブルを起こしてしまう人などはPMDDを疑ってみてください。
月経困難症との違い
PMSと月経困難症の大きな違いは症状の現れるタイミングです。PMSが生理前2~10日に症状が現れるのに対して、月経困難症の症状は生理開始と共に現れます。重い生理痛や経血過多などの不調は、月経困難症に含まれます。
月経困難症でも気持ちの落ち込みや不安感などの精神症状が見られることがありますが、身体的な症状を訴え診断を受けるケースが多いでしょう。生理の度に鎮痛剤を服用しなければ日常生活を送ることができないなど、生活に支障をおよぼす生理に関する症状は、月経困難症と診断されます。
ピルはPMSの改善に効果が期待できる
PMSの症状を改善させる方法はさまざまなものがあります。さまざまな治療方法のなかでも、ピルはPMSに対する効果が期待されている方法です。PMSの治療は、2種類の女性ホルモン合剤である低用量ピルまたは超低用量ピルを用います。
ピルには卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2つのホルモン剤が配合されており、生理周期によって大きく変動するホルモンバランスを安定させる働きがあります。
ピルの働きによって、ホルモンバランスが安定しPMSの症状を抑えることができると考えられています。
当院でのピル処方の流れPMS治療を目的としたピルは保険適用
一般的にピルは避妊薬として知られており、多くの場合保険適用外になります。しかし、生理に関するさまざまな病気の原因がホルモンにあることが解明されるにつれて、病気の治療薬として用いられるケースも増えてきました。
ピルは、月経困難症や子宮内膜症などの治療に用いられることもあり、病気の治療を目的としている場合、保険適用になります。PMSも症状の重さによっては、ピルが治療目的で処方され保険適用となるケースがあります。
しかし、PMSだからといって必ずしもピルの処方が行われる訳ではなく、漢方や症状に合わせた対処薬などを処方されるケースもあります。
PMSの治療に用いられるピルの種類
治療目的の場合、ホルモン配合量が少ない超低用量ピルが第一選択薬となるケースが多いです。ピルはホルモンの配合量によって「中用量ピル」「低用量ピル」「超低用量ピル」に分類されます。ホルモン配合量が少ない程、副作用が比較的現れにくいことも、治療目的で超低容量ピルが選ばれる理由のひとつと言えるでしょう。
治療目的で処方されることが多い超低用量ピルは、ルナベルLD、ルナベルULD、ヤーズ配合錠、ヤーズフレックスなどがあります。
それぞれのピルは特徴や服用方法が異なり、PMSの症状や体調、過去の病歴、ライフスタイルに合わせて適切なピルを医師が選択して処方します。
PMS治療でピルを服用する際の副作用
ピルを服用する際、以下のような副作用が現れることがあります。
これらの副作用はピルを初めて飲む時に現れやすく、1シート飲み終わる頃には消失しているケースが多いです。しかし、なかには体質的にピルが合わず副作用が消失しない場合もあるため、症状が辛い場合には医師に相談しましょう。
また、ピルによる重篤な副作用のリスクとして血栓症が挙げられます。血栓症は、血液中にできた塊が血管を塞いでしまう病気です。場合によっては死亡リスクもある病気のため、肥満体質の人や喫煙者など血栓症リスクの高い人は、ピルの処方を受けられないことがあります。
血栓症の副作用は充分注意すべきですが、健康な人がピルを服用することによって起こる血栓症のリスクは、1万人中3~9人程です。一方、健康な女性が妊娠した際の血栓症リスクは1万人あたり5~20人、産後まもなくの女性にいたっては1万人あたり40~56人と言われています。
ピルを服用することで突出して血栓症リスクが増加するとは言えませんが、医師の診断を受けて処方してもらい正しい服用方法を守ることが大切です。
ピルを服用しているのにPMSが改善されない場合は?
ピルはPMSの改善に効果が期待できますが、全ての人に確実に効果がみられる訳ではありません。体質的にピルが合わない人の場合、PMSが改善されないこともあるでしょう。
ピルにはさまざまな種類があるため、PMSが改善されない場合は他のピルを検討することもできます。また、ピル以外の方法でPMSへの対処をすることもできます。
ピルを飲んでいてもPMSが改善されないと感じた場合には、かかりつけ医に改めて相談してみるのがおすすめです。
ピル以外のPMSの改善方法
PMSはホルモンバランスの乱れが原因と考えられるため、ピルを使ったホルモン療法による効果が期待できます。しかし、体質的にピルを服用できない人やピルを服用してもPMSが改善されなかった人の場合、他にもさまざまな治療方法の選択肢があります。
1.症状に合わせた薬を服用する
PMSの場合、症状に合わせて対処療法を行うこともあります。例えば、頭痛や腹痛が酷いのであれば鎮痛薬を処方したり、むくみが出ているのであれば利尿剤を処方したりすることもあります。
その他、強い不安感やイライラなどには精神安定剤や抗精神病薬を選択肢に持つこともあるでしょう。PMSの改善薬はピルだけに限られる訳ではないので、まずは症状や症状による辛さの程度を相談してみてください。
2.漢方を服用する
加味逍遥散(かみしょうようさん) | イライラ、ほてり、のぼせ、不安感 |
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抑肝散(よくかんさん) | イライラ、不眠 |
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) | 下腹部痛、肩こり、ニキビ、頭痛、めまい |
五苓散(ごれいさん) | 頭痛、むくみ |
補中益気湯(ほちゅうえっきとう) | 倦怠感、過眠、下痢 |
PMSでは、漢方を処方されることもあります。漢方では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスを保つことが重要とされており、それぞれに分類される漢方を症状に合わせて服用します。
漢方はドラッグストアや通販などでも購入できますが、自分自身の体調や症状に合わせたものを選ぶ必要があります。自分自身で適切な漢方を選ぶのは難しいため、服用の際は漢方の取り扱いがある医療機関で処方してもらうのがおすすめです。
3.アルコールを控える
アルコールはPMSを悪化させると考えられていますが、正確にはPMSを助長させる可能性があると言った方がよいでしょう。
女性ホルモンのひとつであるエストロゲンは内臓脂肪の燃焼や脂質代謝をサポートする働きがあるホルモンです。しかし、PMSが起こる黄体期(高温期)にはエストロゲンが急激に減少するため、内臓脂肪の燃焼や脂質の代謝は肝臓が一手に引き受けることになり、肝臓の働きが弱くなることがあります。
この時、多量のアルコールを摂取すると、肝臓によるアルコール成分の分解が間に合わず2日酔いなどを引き起こす可能性が高いです。
2日酔いなどの体の不調に引っ張られてPMSによる精神面の不調が助長されることも考えられるため、PMSが起こりやすい生理前はアルコールを控えた方がよいでしょう。
4.カフェインを控える
眠気覚ましの作用が有名なカフェインは、コーヒーや紅茶などさまざまなものに含まれています。エナジードリンクなどは多量のカフェインが配合されている飲み物です。これらのカフェインを多く含むものを摂取した後は、眠気が覚めスッキリした感覚を得る人が多いでしょう。
しかし、カフェインは過剰摂取すると過剰な興奮や血圧・心拍数の急増、疲労感、無気力などを引き起こすことが分かっています。特に、カフェインに耐性のない人は、これらの副作用を感じやすいと言われています。
PMSが起こりやすい期間にカフェインを過剰に摂取することで、カフェインの副作用がPMSの精神症状を助長する可能性もあるでしょう。日常的にカフェインの摂取量を抑えたり、PMSが起こりやすい期間はカフェインを控えるのがおすすめです。
5.禁煙する
PMSの人は喫煙習慣にも注意が必要です。タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血流を悪くさせる作用を持っているため、PMSによる身体の症状を助長してしまう可能性があります。
また、PMSによるイライラを抑えるためにタバコを吸うという人も居ますが、これは大きな間違いです。タバコに含まれるニコチンには一時的なリフレッシュ効果がありますが、ニコチンが欠乏した際に中毒症状としてイライラすることが分かっています。
ニコチンの欠乏症状がPMSの精神症状を助長してしまうことがあるのです。
PMSの人はなるべく日常的に禁煙をし、受動喫煙にも気を付けるのがよいでしょう。
6.軽い有酸素運動をする
有酸素運動とは酸素を取り込みながら行う運動です。適度な有酸素運動を行うことで、さまざまなホルモンの分泌を促すことが分かっています。
有酸素運動によって分泌が促されるホルモンのなかには、精神を安定させるセロトニンや多幸感をもたらすエンドルフィンなどが含まれ、これらがPMSの精神症状の緩和に効果が期待されているのです。また、有酸素運動によって全身の血流がよくなることで、身体症状の緩和も期待できます。
有酸素運動には、ウォーキングやランニング、サイクリング、水泳、エクササイズなどが挙げられます。酸素を摂り入れつつ一定の動きをリズミカルに繰り返すことでもセロトニンの分泌が促されるため、階段の上り下り運動を繰り返すだけでもOKです。
疲労を溜めてしまうと身体症状を助長してしまう可能性があるため、あくまで疲れを感じない程度の軽い有酸素運動にとどめておきましょう。
7.規則正しい生活を心掛ける
不規則な生活が続くと、自律神経が乱れ不眠や過眠などの症状が起こりやすくなります。また、不規則な生活や睡眠不足はホルモンの分泌にも大きな影響を与えます。
毎日同じ時間に起きて朝日を浴び、同じ時間に就寝して睡眠時間を確保しましょう。バランスのとれた1日3回の食事や軽い有酸素運動を生活に取り入れることで、よりPMSの改善に効果が期待できます。
8.食生活を見直す
カルシウムを多く含む食べ物 | 干しエビ、ししゃも、小松菜、モロヘイヤ、焼き豆腐、牛乳、スキムミルクなど |
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カルシウムの吸収を助ける栄養 | マグネシウム、ビタミンD、ビタミンC、タンパク質 |
PMS(PMDD)における栄養素のもたらす効果を調べたある研究では、カルシウムを摂取することでPMS(PMDD)に対する高い改善効果が見られたという報告もあります。とは言え、栄養素はどれかひとつだけを極端に摂取するよりも、さまざまな栄養をバランスよく摂取する方が望ましいです。
カルシウムを積極的に摂取するためにも、さまざまな栄養素を摂れるよう食事内容を見直してみてください。
果物・野菜など食物繊維の多いものや、オメガ3脂肪酸(EPA、DHA、α‐リノレン酸)を積極的に摂り、オメガ6脂肪酸(揚げ物、マヨネーズ、スナック菓子、カップ麺)、砂糖、塩、カフェインとアルコールを減らします。
そのほかの栄養素として、ビタミンB6(玄米・豆類、青魚・マグロ・鮭、レバー、豚肉、ニンニクなど)、ビタミンD(しいたけ・きのこ類、青魚、鮭、卵など)、マグネシウム(ナッツ類、海藻類、大豆製品など)を積極的に摂ります。
食事以外でも栄養素の補充としてサプリメントを摂取することも出来ます。
そのほか大豆イソフラボンやチェストツリー、セントジョーンズワートなどPMS・PMDDに効果があるとされるサプリメントもあります。
サプリメント類は薬と併用できないケースなどもありますので、使用の際にはかかりつけ医にご相談ください。
9.鍼灸をする
鍼灸では、漢方と同じく「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスを整えることができます。血流の改善や交感神経と副交感神経を整えるため、PMSの症状改善に効果が期待できます。
また、お灸を用いるとじんわり体を芯から温めることができるため、腹痛や腰痛などの痛みを和らげる効果も期待できます。
PMSの改善が目的で鍼灸の処置を受ける際には、PMSや婦人病などに見識が深い鍼灸院を選ぶとよいでしょう。
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PMSは生理の開始と同時に症状が消失するため「少しの間だから耐えよう」と我慢してしまう人も少なくありません。しかし、生理は閉経まで毎月あり、毎月2~10日を不快な思いをしながら過ごすのは辛いことです。
PMSについての解明が進むなかで、ピルやピル以外のさまざまな改善方法が分かってきました。これらの改善方法のなかから、自分自身の体やライフスタイルにあった方法を選びPMSの症状を和らげましょう。
PMSに悩んで婦人科を受診する人は年々増加傾向にあります。辛い症状を我慢せず、まずはかかりつけ医にPMSの症状を相談してみてください。
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