
出産に関する費用の多くは健康保険の適用外となるため多額の医療費がかかります。そこで、お金の心配をせずに出産できるよう支給されているのが出産育児一時金です。出産した家庭の費用負担を軽減してくれる出産育児一時金ですが、直接支払制度で手軽に利用できることをご存知でしょうか。
この記事では、出産育児一時金の直接支払制度について分かりやすく解説します。これから出産を迎える人は、ぜひ参考にしてみてください。
出産育児一時金とは
出産育児一時金とは、いくつかの条件を満たして出産を迎えた人に支給される補助金です。1994年に制定され、高額となる出産費用の全額、もしくは大半を補助し、金銭的な負担を抱えずに出産できるようにする目的で支給されています。
出産育児一時金の支給金額
出産育児一時金は1人の赤ちゃんに対して総額42万円(もしくは40万2,000円)が支給されます。
多胎児の場合は、赤ちゃんの人数分が支給されるため、双子なら84万円(もしくは80万4,000円)、三つ子なら126万円(もしくは120万6,000円)が支給される仕組みです。
赤ちゃん1人に対して支給される42万円のなかには、産科医療補償制度の掛け金が含まれており、加入している健康保険組合によっては付加金が加算給付される場合もあります。
産科医療保障制度とは、出産の際に赤ちゃんが重度の脳性麻痺を患った場合の補償制度です。制度への加入は産院によって異なり、加入している産院で出産する際には産科医療保障制度の掛け金が支給されますが、未加入の産院で出産する場合には掛け金分が支給されません。
当院は産科医療保障制度に加入しております。
産科医療保障制度の掛け金は、これまで1万6,000円でしたが改定され、令和4年1月1日からは12,000円となっています。
出産育児一時金 | 産科医療補償制度の掛け金 | 出産育児一時金の総額 |
40万8,000円 | 1万2,000円 | 42万円 |
付加金は健康保険組合独自の制度となるため、加入団体に確認してみるとよいでしょう。
出産育児一時金の支給要件
出産育児一時金は以下の要件を満たす場合に支給されます。
- 本人もしくは配偶者が健康保険に加入している者
- 妊娠4ヶ月目以降の者
健康保険については、会社などで加入する健康保険や国民健康保険が対象となります。また、配偶者や扶養家族として加入している場合でも支給要件を満たすことができます。
ママが組合員として健康保険組合に加入している場合は、ママの加入している健康保険組合から出産育児一時金が支給されます。
また、出産を機に退職するなど加入する健康保険組合に変更がある場合は、出産日が退職後(組合脱退後)6ヶ月以内の場合に限り以前加入していた健康保険組合に支給を求めることができます。
退職後(組合脱退後)6ヶ月以降は、出産日に加入している健康保険から出産育児一時金が支払われることになるので間違えないようにしましょう。
出産育児一時金は赤ちゃん1人に対して1度しか支給を受けられません。退職後(組合脱退後)6ヶ月以内であっても、退職(脱退)前の健康保険組合、もしくは出産時に加入している健康保険組合のいずれかから支給を受けることになり、二重の支給は受けられないよう定められています。
また、妊娠4ヶ月目以降は、流産・死産・人工中絶などの場合も支給対象となります。
出産育児一時金の直接支払制度とは
出産育児一時金は、これまで産後に申請をして支給を受けるか、受取代理制度を用いて産院が代理受取を行っていました。しかし、代理受取は手続きが複雑で対応していない産院が多く、直接支給を受ける場合には受取が出産後になるため費用を立て替える必要があり金銭面での不安を抱える人も多くいました。
そこで、健康保険組合から支払機関を経由し、直接産院に出産育児一時金による支払いを行えるようにしたのが直接支払制度です。
出産前に手続きをしておくと、健康保険組合から産院に出産育児一時金が出産費用として支払われます。出産費用が出産育児一時金を上回る場合には産院に差額のみを支払い、出産費用が出産育児一時金を下回る場合は健康保険組合から差額の返金を受けることができます。
出産費用が45万円の場合
産科医療補償制度に加入している産院のケース
出産費用 | 出産育児一時金の直接支払制度利用額 | 産院に直接支払う金額 |
45万円 | 42万円 | 3万円 |
産科医療補償制度に加入していない産院のケース
出産費用 | 出産育児一時金の直接支払制度利用額 | 産院に直接支払う金額 |
45万円 | 40万8,000円 | 4万2千円 |
出産費用が40万円の場合
産科医療補償制度に加入している産院のケース
出産費用 | 出産育児一時金の直接支払制度利用額 | 産院に直接支払う金額 |
40万円 | 42万円 | 0円 |
※後日、申請することで健康保険組合から2万円の差額を受け取ることができる
産科医療補償制度に加入していない産院のケース
出産費用 | 出産育児一時金の直接支払制度利用額 | 産院に直接支払う金額 |
40万円 | 40万8,000円 | 0円 |
※後日、申請することで健康保険組合から8,000円の差額を受け取ることができる
出産育児一時金の直接支払制度を利用することで、事前に多額の現金を用意する必要がなくなり金銭面の負担を抑えて出産できるようになりました。
出産育児一時金の直接支払制度を利用する方法
出産育児一時金の直接支払制度の利用方法についても紹介していきます。
手順1.直接支払制度を利用できるか産院に確認する
出産育児一時金の直接支払制度は対応可能な産院でしか利用できません。産院によっては、直接支払制度に未対応な場合もあります。
まずは、出産を予定している産院で直接支払制度が利用可能なのか調べておきましょう。
当院は対応しておりますので、35週前後に合意文書のご案内をさせていただきます。
手順2.直接支払制度利用に対する合意書を産院に提出する
出産育児一時金の直接支払制度を利用する場合、産院に直接支払制度の利用に対する合意書を提出します。合意書の提出時には被保険者証の提示を求められるケースが多いです。
尚、すでに脱退し資格を失った健康保険組合から出産育児一時金の支給を受ける場合、脱退した健康保険組合から交付された「資格喪失等を証明する書類」の提出が求められます。資格喪失等を証明する書類を紛失してしまった場合は、以前働いていた職場や年金事務所に再発行の依頼をしましょう。
手順3.出産育児一時金で足りない場合には退院時に支払いをする
出産費用が出産育児一時金で足りない場合は、産院で差額を支払います。
出産育児一時金よりも出産費用が下回る場合、差額の支給を受ける際に出産費用の領収・明細書の写しが必要になります。基本的に領収・明細書は再発行してもらえないので、紛失してしまわないよう注意しましょう。
出産育児一時金の差額払い戻しの申請方法
出産費用が出産育児一時金を下回る場合、差額の払い戻しを受けることができます。払い戻しには申請が必要なため、必要書類を用意して加入している健康保険組合に申請しましょう。
申請書の様式は加入している健康保険組合によって多少異なりますが、一般的に「出産育児一時金差額申請書」として用意されていることが多いです。団体に問い合わせて書類を送付してもらう、もしくは団体のホームページ等から書類をダウンロードし、印刷して記入してください。
申請の際には以下の書類が必要です。
- 出産費用の領収・明細書のコピー
- 直接支払制度利用に関する合意書のコピー
また、申請書には医療機関もしくは市区町村に依頼し、証明してもらう必要のある項目があります。医療機関や市区町村の証明を受けられない場合には、出生(または死産)が確認できる書類の添付も必要です。
【2022年12月時点】出産育児一時金は2023年4月から増額される
2022年12月15日、子育て支援の拡充や出生数の増加を目的として出産育児一時金の増額が決定されました。
物価の高騰や景気の停滞により、年々出産費用は増加傾向にあります。令和元年度の厚生労働所による集計では、出産費用の全体平均は46万217円とされており出産育児一時金では賄えないケースがほとんどです。
参考:厚生労働省 出産育児一時金について
出産育児一時金はこれまでも景気の動向によって度々増加されてきました。今回の決定によって、出産育児一時金は、従来の42万円(産科医療保障制度の掛け金込み)から、50万円に増額されることになります。
2022年12月時点では、出産費用の増額は2023年4月に開始される見込みです。
まとめ
出産や育児には、たくさんのお金がかかります。出産育児一時金を始めとした補助金を積極的に活用して、家庭の費用負担を抑えるとよいでしょう。
また、直接支払制度を利用することで、申請の手間を減らし、多額の現金を手元に用意しなくても出産費用を賄うことができます。制度を充分に理解し、有効活用してみてください。
当院では出産育児一時金の直接支払制度が利用できます。お手続きなど詳細は窓口にお問い合わせくださいませ。
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